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ARMORED CORE 夢追い人

MISSION 2 「野獣二匹」

俺はブースターを吹かせつつ、軽いジャンプとステップでベアーとの距離を詰めていった。

対して奴はその場を動かず仁王立ちしたままだ。

奴の出方を警戒しつつ距離を詰めていく。

その時ベアーから一発のミサイルが発射され、それは俺と奴との中間あたりで4発のミサイルに分裂した。

――マルチミサイルか?!――

俺はコアの迎撃機銃と回避運動で分裂したミサイルをしのいだが、その時小型のコンテナ状の物体が地表を滑りながらウルフの足元に迫ってきていた。

そのコンテナも4発のミサイルに分裂し、蛇が獲物に絡み付くかのごとく俺に襲い掛かって来た。

――地上魚雷!――

迎撃機銃が対応できない真下から喰らいついてくる。

のけぞるように回避したその時、俺の鼻先をかすめるように目の前を4発のミサイルが上昇していった。

俺は間合いを詰めようとブースターをふかすが、目の前に再びマルチミサイルと地上魚雷が迫ってきていた。

――波状攻撃か――

コアの機銃が作動しミサイルを撃ち落としていく。

だが奴は両肩に装備されたマルチミサイルと地上魚雷を絶え間なく撃ち込んでくる。

しかも俺との距離を一定にしたまま左右に動き、射撃位置を微妙に調整しながら攻撃してくる。

俺は正面と左右に加え、各方向の上下からミサイルを撃ち込まれていた。

それはまるで数十機のMTに囲まれ集中砲火を受けているかの様だった。

「初っ端からやってくれるわな!」

デコイでミサイルを散らすが、デコイと機銃の迎撃を免れたミサイルが迫ってくる。

地上から迫る魚雷と空中から降ってくるマルチミサイルの連続攻撃は激しく、致命的ではないが確実にダメージを与えてくる。

各部の装甲版が砕け、焼け付き、変形していく。



しかし奴の狙いは俺にダメージを与えるだけではなかった。

それは戦っている俺がよく分かっていた。

奴のもう一つの狙いは俺を休まず動かしエネルギーを消耗させる事だった。

ミサイルで俺を仕留めればそれで良し、それが出来なくともダメージを与えエネルギーを消耗させた所で止めを刺すという腹なのだろう。

今の奴は熊ではなく獲物を絡めとりじわじわと締め上げ体力を奪っていく蛇のようだった。



このまま奴のペースが続けば結果は目に見えている。

ミサイルを回避しつつ俺はデコイの弾数とエネルギー残量に目をやる。

「デコイ残り2発、エネルギーは・・・無理じゃねえな、おっしゃあ!」

エネルギーの消費を抑えるよう動きを小刻みにしながらOBを起動した。

コア後部に内蔵された超高出力スラスターがせり出し凝縮されたエネルギーを一気に吐き出す。

「だっしゃあああああ!!!」

凄まじいスピードでベアーに向かって一直線に突き進む。

ACごと俺自身が銃弾になったかのようだ。

全身が押し潰されそうになる。

俺の突撃に合わせたかのようにベアーは動きを止め、一瞬間をおいて凄まじいスピードで突っ込んできた。

奴もOBを発動し、グレネードライフルを構え真正面から突進してくる。

ライフルが奴をロックオンするかという距離で巨大な砲弾が俺に向けて放たれた。

砲弾が視界一杯に広がっていく。

ウルフを右に振りグレネード弾の横を一瞬で滑りぬける。

しかし俺の回避動作に合わせてベアーがレーザーブレードで斬りかかって来る。

「ちょいやああああ!」

間一髪上昇し、紙一重でその斬撃をかわす。

光の刃がウルフのつま先をかすめる。

上昇したままOBをカットし、慣性に任せ突っ込みながらターンブースターで急速旋回する。

「んぐぬうううううっ!」
前方への急加速から回避運動に上昇、急速旋回といった急激な連続動作で雑巾を絞るかのように全身を締め上げられる。

胃の内容物を全て吐き出しそうになるどころか内蔵自体を吐き出しそうだった。

だが耐える。

苦痛の中、必死になって耐えながら俺の目は奴を捉え続けていた。

俺の目には必死になって旋回しているベアーが映っていた。

奴は先程の突撃からまだ旋回している途中だった。

――ここでやる!――

着地と同時にOBを再度起動し、ベアーに向かって一直線に突き進む。

全身が軋み悲鳴を上げる。

俺の身体だけでなくウルフにも負担が大きかった。

連続でOBを使用した為オーバーヒートにより機体の各部が熱によるダメージを受けていた。

おまけにエネルギーに余裕が無い。

もしエネルギーが尽きれば奴のグレネードの格好の餌食となってしまう。

だがここでインファイトに持ち込まなければ再びミサイル攻撃にさらされるのは間違いなかった。

奴が俺を捉えていない今がチャンスだった。

距離が詰まっていくがコックピットにエネルギー残量を警告するアラームが鳴り響く。

「だあああ!んなこたあ分かってるっての!」

アラームに怒鳴り返しながらエネルギー残量計をチェックしつつベアーとの距離を測る。

際どい距離だった。

ライフルが奴をロックするかしないかでエネルギーが底をつく。

――ならば!――

ブースターを軽く吹かしウルフを上昇させる。

それに合わせて先程と同じくOBをカットし慣性に任せて突っ込む。

距離が詰まりライフルがベアーをロックする。

着地のタイミングに合わせブースターを軽く吹かしウルフを滑空させる。

スケートさながらに地表ギリギリを滑る様にベアーの後ろに回りこむ。

「攻守交替だわな。」
奴の背に張り付きながらライフルを撃ちまくる。

銃口から次々と弾丸が吐き出されベアーに命中する。

しかし分厚い装甲の前に銃弾は次々と弾かれてしまう。

構わずライフルを撃ち続ける。

「弾は防げても熱までは防げるかいな?」

次々と命中するライフル弾が発する熱でベアーの各部から水蒸気が上がりだした。



重量級のベアーは運動性が低く回避運動が苦手である。

しかもウルフに装備しているライフルは照準サイトが広範囲をカバーするタイプであり、FCSが高性能な事も加わって近距離での命中精度はトップクラスを誇る。

結果、殆んどの銃弾がベアーに命中していた。

OBを発動させた際に機体の熱が上昇しているベアーは銃撃で機体温度が更に上昇し、完全にオーバーヒートしていた。

機体から水蒸気を上げながらも、奴は必死になって俺を正面に捉えようとする。

しかし重量級のベアーでは中量級のウルフをインファイトで、しかもバックを取られている状態で捉えるのは至難の業だ。

それにここで決めなければ形勢を逆転されかねない。

消耗しているとはいえ火力の差が段違いであるのに変わりはない。

奴が必死で俺を捉えようとしているのと同じく、俺も奴のバックを取り続けるのに必死だった。

オーバーヒートとライフル弾によるダメージで装甲が劣化してきたのか、今まで弾かれていた銃弾が奴の装甲にめり込み、削り、撃ち抜き始めた。

銃弾の一発一発がピラニアの牙の如くベアーの装甲を喰いちぎっていく。



突如奴は身を翻しドームの壁面に向かって一直線に突っ込んでいく。

――パニック?いや、そんなタマじゃない。何企んでる?――

奴の行動に疑問を抱きつつも背に張り付いたままライフルを撃ち続ける。

しかし奴は攻撃されている事すらどうでもいいと言わんばかりに突き進む。

壁がベアーの目の前に迫る。

しかし奴はスピードを緩めない。

そのまま壁に激突するかと思ったその時、奴はグレネードを壁面に向けて撃ち込んだ。

グレネードの爆発がベアーを包む。

「んなっ?!」
俺は奴の行動に呆気を取られてしまった。

ベアーが大きく吹き飛ばされ目の前に迫る。

そのまま激突し圧倒的な重量差でウルフが弾き飛ばされる。

倒れこそしなかったが姿勢を安定させる為、ガクガクと後退し両足で踏ん張る。

その隙にベアーは俺の右側から滑り込んできた。

グレネードライフルの砲身が冷たい輝きを放ちながら至近距離でウルフのコアのど真ん中に突きつけられた。

――やばい!――

ターンブースターを発動し機体をひねる。

ほぼ同時にグレネード弾が発射された。
凄まじい衝撃と共にグレネード弾が炸裂する。

だがグレネード弾はコアではなくウルフの右肩に当たっていた。

ターンブースターで無理矢理体勢を変えた為、コアへの直撃を何とか防いだのだ。

しかしグレネードの直撃でウルフの右腕部は肩からゴッソリと吹き飛ばされていた。



全身がカッと熱くなる。

「くそったれがあああ!」

ロケット弾をベアーに向けて乱射する。

至近距離で撃ちまくったので次々と命中し、その内の一発がベアーのレーザーブレードを破壊した。



奴はブースターを吹かし機体を左右に振りながら後退した。

俺は奴を追いながらロケットを打ち続ける。

ロケット弾を撃ち尽くした時、奴は後退を止めた。

俺と奴との距離は丁度ライフルがロックオンするかしないかぐらいだ。

俺と奴の動きがピタリと止まる。

時間が止まったかのように俺も奴も動かなくなる。

奴も俺と同じ事を考えているのだろう。

――決着をつける――

俺はブレードを、奴はグレネードライフルを構える。

お互いにこの得物で決める腹だ。

俺に残された得物はブレードのみ。

しかし奴にはグレネードライフル以外にもマルチミサイルと地上魚雷が残されている。

にも拘らず奴は俺との真っ向勝負を望む。

もっと上手く、もっと有利に戦えるはずなのにあえてその方法を採らなかった。

――馬鹿野郎――

そう思った。

しかし俺は奴を心の底から気に入っていた。

たまらなく切なかった。

奴が愛しくさえ思える。

今ここで奴と戦っている事が嬉しくてたまらなかった。

はちきれそうな心を押さえ込むように歯を食い縛り目を細める。

――よし、よし、分かった。今そこまで行ってやる――

グッとウルフを一歩踏み込ませレーザーブレードを構える。

それに合わせ、奴も同じく一歩踏み込みながらグレネードライフルを構える。



ぞくり



一歩踏み込んだ瞬間、身体の中を飢えた獣が駆け抜けた。

さっきまでの切ない思いが嘘の様に消え、それに入れ替わる様に奴を粉々に打ち砕きたいという欲望が全身を駆け巡る。

心臓の鼓動が高まり身体中の血管が脈打ちだす。

血液がドロドロに溶けた溶鉄のごとく熱くなる。

“ビクン”と身体が跳ねる。

同時に俺を繋ぎ止めていた何かが切れた。

「きえあああああ!!!」
雄叫びをあげ真正面から突っ込む。

奴も俺に向かって突っ込んでくる。
距離が詰まっていく。

ベアーが目の前に迫る。

俺は真正面からレーザーブレードで切り掛かる。

グレネードが俺を捉える。

ブレードを振りぬく。

光の刃がグレネードライフルを切り裂く。

裂けた砲身からグレネード弾が撃ちだされウルフのコアに炸裂する。

その時、切り裂かれた衝撃と至近距離でのグレネードの爆発が重なり装填されていたグレネード弾が暴発した。

弾層内の全砲弾が同時に爆発する。
グレネードの連続爆発に俺も奴も巻き込まれる。

機体温度が一気に上昇し警告音が鳴り響くと同時に凄まじい衝撃で吹き飛ばされる

俺自身も衝撃で全身を激しく揺さぶられた。

奴の姿を捉えたまま意識が途切れていく。





夢を見ているようだった。

身体が軽く、妙に心地よかった。

痛みを感じない。

ぬくもりに包まれていた。

このまま静かに眠りたくなってくる。

そっと目を閉じた。



――スチールハートさん――



閉じていた目がぱっと開く。

聞きなれた声が俺の頭の中に響いた。

俺の名を呼んでいた。


――誰だ?俺を呼んでいる?――
――この声は・・・・・・――





「・・・・・・ハートさん!スチールハートさん!返事をして下さい!スチールハートさん!返事をして下さい!返事をして下さいってば!」
悲鳴にも似た呼びかけを聞いた瞬間、俺は気がついた。

しかしまだ意識がはっきりとしない。

――俺、どれぐらい寝てた?――

何故か眠っていた時間が気になりだした。

――今の声、誰だったっけかな?知ってるはずなんだけどもな?・・・ん?――

俺を呼んだ声の主のことを考える。

だが頭の中で奇妙な違和感がじわじわと広がりだす。

――何だ、何か忘れてねえか?――

考える。

――俺、今・・・・・・?――

考える。

――・・・・・・!――

何かが繋がる。

――戦ってるんじゃねえか!――
弾けるように意識が覚醒する。

――奴は?!――

ベアーは真正面にいた。

先程の爆発で吹き飛ばされたままなのか、奴も先程の衝撃で全身がズタボロになっていた。

特に右半身は爆発の衝撃を直に受けた為か、右腕部ユニットは肩口からゴッソリとちぎれ落ちコア右後部に装備されていた地上魚雷も砕け散っていた。

右脚部は装甲全体が焼け付き、膝関節がいかれたのか片膝を付いている。



――やれる――

「おあああああ!」

俺はベアーに向けて再び斬りかかる。
ブレードが奴の頭部を真っ二つにしようかとしたその時


「スチールハートさん!やめて下さい!もう勝負はついてます!貴方の勝ちです!もうやめて下さい!もう終わってるんです!スチールハートさん!」
――勝負はついている?俺の勝ち?やめろ?終わってる? ――
女の必死の叫び声で俺は動きを止めた。

ベアーの頭部擦れ擦れでブレードが止まる。

そっと耳を澄ませる。
「バトル終了、ウィナー・・・“スチールハート”!!!バトル終了、ウィナー・・・“スチールハート”!!!」
アナウンスのバトル決着を宣言する放送が聞こえる。
――勝った?俺の勝ちなのか?――
観客席の方に目をやった。

ドーム内は熱狂的な歓声に包まれていた。

勝負が決着した瞬間アリーナで見られる風景だ。



巨大な鋼鉄の巨人達の戦いは観る者の心を熱くさせる。

無論その内容にもよるが、己の全ての力を出しぶつかり合う激しい戦いを見て心を惹かれぬ者はまずいない。

加えてAC同士の戦いはその巨大さ故の圧倒的な存在感と、兵器としての凄まじい破壊力からくる苛烈さに於いて明らかに一線を画していた。



左腕を頭上に高く掲げ観客の声援に応える。

歓声が一際高くなった。

――勝てたか――

決着がついたことを理解した瞬間、緊張が解けた。

疲労が全身を一気に包み込む

――誰の声だ?あの声?・・・女?・・・誰だ?――

俺は声の主を思い出そうとしながらリフトへ向けて移動していた。

ズタボロになったウルフの動きがとても重く感じる。

途中ベアーの方に目を向けると大型キャリアーと救急車が駆けつけ、コックピットからハードナックルを連れ出している最中だった。

様子から見て命に別状は無さそうだった。

先程まであれほど激しく戦った相手だと言うのに何故かホッとしていた。



まだ意識がはっきりしていないのか、分かっているはずなのにその女が誰なのかはっきりと思い出せない。

ウルフをリフトに載せた時、再びあの声が聞こえた。
「スチールハートさん!大丈夫ですか、怪我はないですか、動けますか、聞こえてますか?!聞こえてるなら返事して下さいよ!スチルハートさん!!!」
泣きそうな声で必死になって問い掛けてくる。
俺は声の主が誰なのか思い出していた。

いや、いちいち考えなくとも誰なのかすぐ分る声だった。
「聞こえてるってばよ。んな大声だと鼓膜が破れるだろ。も少し静かに喋ってくれ。」
「何言ってんですか!返事しなかったのは貴方でしょうが!何度も呼んだんですよ!聞こえてたんなら返事して下さい!心配したんですからね!大丈夫ならさっさと戻ってきて下さい!」
「分かった、分かったてばよ。すぐ戻っからそんな怒らんでくれって。」
「本当に分ってるんですか?!滅茶苦茶心配したんですからね!何回呼んでも応えな
いから死んじゃったと思ったんですよ!聞こえてるんですか!」
「聞こえてる、聞こえてるってば。反省してっからもう勘弁してくれってば。」
「分ってるんなら早く戻ってきて下さい!グレッグさん達も整備するの待ってるんですよ!分りましたね!」
それだけ言うとサラは通信を切ってしまった。

相当心配したのだろう。

彼女があそこまで感情を露にするのは初めて見た。
「まいったねえ、こりゃ。」
リフトで下降しながら俺は誰に言うでもなく呟いていた。

MISSIONN 2 「野獣二匹」 END

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