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ARMORED CORE 夢追い人

MISSION 1 「スチールハート」

――アリーナ――

それは“レイブン”と呼ばれる傭兵達が“AC”という名の巨大兵器を用いた戦いを売り物にした闘技場だった。

それはいまや世界中のあらゆる都市に存在し、無い都市の方が珍しいぐらいであった。
ここザンダシティアリーナもその一つだった。

そのザンダシティアリーナAC整備場の休憩室にて一人の男が家計簿と電卓を手に唸っている。
「今月の食費と光熱費、家賃にガレージ代に整備費で・・・んでもって・・・」
電卓を片手に唸っている姿はこの場においてかなり異質であった。
しかもAC操縦時に着用する耐圧服を身に付けている事からその男はレイブンと見受けられた・・・のだがその姿は世間一般に定着している“レイブン”のイメージからは極めて程遠かった。

「あの〜、そろそろ試合の準備に移ってくれませんか?」
コンコード社オペレーターの制服を身に付けた女性が電卓男に声をかけた。
年齢は20代前半の様で、均整の取れた身体つきをしていた。

ダークブラウンの髪をポニーテールで纏めており、顔立ちは多少あどけなさが残っていたが美人と言えた。
「ぬう、もう少し待ってくれな・・・え〜と、これがこうであれが・・・」
返答するも家計簿に向きっぱなしの男を見て、女は深い溜め息を吐きながらこの男と仕事をしなければならない自分の運の無さを嘆いていた。
「機体整備は終わってるんですから最終チェック済ませて下さいよ、スチールハートさん。早くしないとグレッグさんに怒られますよ。」
真面目な性格なのかめげずに男に呼び掛けるが、その姿と声は『お願いしますだお代官様〜』と涙ながらに懇願するお百姓さんの姿を連想させとてもではないがコンコード社のオペレーターには見えなかった。
「あ〜、もうちょい・・・これがこうで・・・よし終わった。さあ最終チェックといくかいな、サラちゃん。」

スチールハートと呼ばれた男が立ち上がる。

身体には無駄な脂肪が無く全体的にがっしりとしていた。

黒髪を短く刈っており、顔立ちは二枚目とは言えなかったが不細工とも言えない感じだった。

外見的にはレイブンと言われても納得のいく程に鍛え込まれた身体つきだったが掴み所の無さそうな飄々とした雰囲気と性格に加え人懐っこそうな目つきの為、初対面の人のみならず彼がレイブンだと知っている人でさえも納得出来ない程であった。



家計簿と計算機を懐にしまい込み何事も無かったようにこちらを向いているスチールハートの顔を見る度、サラは自分の運の無さを心底恨むのであった。

またもや溜め息が漏れてしまう。
「ん?どうしたっての、疲れてそうだけど?」
自分の疲労の原因となっている男に尋ねられ『あんたのせいだ!』とつっこもうとしたがさらに疲れる羽目になりそうに思えたのでやめることにした。
「・・・前から“ちゃん”はやめて下さいって言ってるじゃないですか、とにかく最終チェックをお願いします。」
「了解だってば。さて、我が愛機“スチールウルフ”の調子はどうかいなっと。」
「機体の整備は万全だ。心配いらん。」
作業服に身を包んだ中年の男が声をかけてきた。

「あ、グレッグさん。遅れてすいません。」

「お前さんが謝る事じゃあない。それにそいつが遅れる分も計算しといたからな。心配はいらんぞ。」

グレッグは余程のベテランなのか、初対面の者でも一目で分るほど現場一筋の職人気質という雰囲気が滲み出ていた。
「うす、いつも整備ありがとさんです。お蔭様でいつも儲けさせてもらってるっすよ。」

「・・・お前さんを見てると本当にレイブンかと思ってしまう時があるが・・・まあいい、今日の試合も頑張ってな。」
「・・・んあ、そういえば今日の対戦相手は・・・誰だったっけかな・・・う〜ん、サラちゃん?」
「だから“ちゃん”はやめて下さい。貴方がアリーナ初戦で倒した“ハードナックル”ですよ。忘れたんですか?」
「そうだ思い出した。あの大儲けさせてもらった時の人だよな。」
「・・・本人の前でそんな事絶対に言わないで下さいね。」
「しかしあの時は本当に儲けたな。なんせ殆どが相手のレイブン・・・ハードナックル・・・だったっけかな・・・に賭けてて俺の方は大穴だったもんな〜♪ファイトマネーを合わせれば手取り80,000Cr程の儲けだったかな?そういえばそっちも結構儲けたんだろ?」
「・・・私は1,000Crでしたけど、まあそれなりに大金なんですが・・・しかし、その・・・幾らなんでも全財産の6割も賭けますか、普通?」
「レイブンの金銭感覚は俺達とは違うもんなんだよ。まあ奴さんはちょいと特別すぎるが・・・あまり深く考えん方が良い。」
額にしわを寄せ悩むサラにグレッグが声をかける。
「一応納得してはいるんですが・・・」
「それはレイブンの金銭感覚か、それとも奴さんの事か?」
「両方です。ただしあの人については・・・まあ、何と言うか・・・」

「まあ、奴さんについてはなあ・・・・・・まあ今は仕事を頑張んな。」

「あはははは・・・まあ、これが私の仕事ですしね・・・」

「あ〜、お話中悪いんだけっども俺は放置されたままでOKなのかいな?」

「あ、すいません。そうそう、今回の契約も修理費と弾薬費を自己負担という事で手続きしておきましたので。」
「うい、OK、OK。今回の賞金は45,000Crだったよねん。」



一般的なアリーナでの下位ランクレイブンの賞金額は良くても7,000Cr前後といった所だ。

しかしこのザンダシティアリーナでは修理費、弾薬費を自己負担とするならば賞金が遥かに高額となる。

腕に自信のある者達は当然こちらを選ぶが負けた時は大損となる。

通常と違い、負けて破壊された機体の修理に関してアリーナ運営委員会は一切関知しない。

その為よほど腕に自信のある者でもない限り賞金の受け取り方式は通常の方式にしている。



「・・・お金が絡むとしっかり覚えてるんですね・・・それはともかくそろそろ最終チェックしてくれませんか。」
「分かったからそんな恨めしそうな顔しないでくれってばさ。今やるからよ。」
サラは心底恨めしそうな目付きでスチールハートを睨んでいた。
「時間がきたら教えてくれな。」
「はい、まだ50分程掛かりますからしっかりお願いしますね。」
「OK,OK。ところで今日の賭けの方はどんな具合だい?」
「今回ハードナックルには全体の7割が賭けています。前回スチールハートさんが勝ったとは言え、Cランクのトップクラスに変わりありませんし、負けてから復讐に燃えて連戦連勝ですからね。気を引き締めておかないと怖いですよ。」
「まあ俺にとってはその方が都合がいいからラッキーだけんどもな。」
「お金が沢山稼げるからですか?」
「勿論、今回も結構多めに賭けてんだな、これが。」
「本当にいつもそればっかりですね・・・」
愛機に向かっていくスチールハートの背を見つめながらサラは寂しげに呟いた。



ガレージの中央で主人を待つ中量級2脚型AC“スチールウルフ”。

重量級の頭部と腕部パーツを使用している為、中量級にしては頑丈そうに見える。

しかし全身が鋼鉄の地肌を剥き出しにしたかの様な鈍い輝きを放つメタリックグレーで塗装されている事と武装がライフルと小型ロケットにブレードのみである為、地味で安っぽい機体という印象が強かった。

派手な塗装や強力な武装を施すといった個性的な機体が多いアリーナにおいては尚更地味に見えた。
だが内装パーツは高性能な物ばかりが使用されており外装パーツも安価な物が多かったが信頼性の高い物が揃えられていた。

火力こそ低いもののその他の機能は安定しており、スチールハートはこの機体でミッションのみならず最近になって参戦したアリーナにおいても高い戦績を収めていた。



AC搭乗用リフトでコックピットへ入りシートに身を沈める。

ハッチを閉じ機体を起動させる。

ジェネレーターが低い唸りをあげ機体各部がそれに呼応していく。

コントロールパネルに手を伸ばし慣れた手付きで機体チェックを開始する。

「機体各部チェック開始・・・ジェネレーター出力安定、ラジエーター正常稼動、ブースター異常無し、ミサイル迎撃システム問題無し・・・レーダー、FCS作動確認完了、モニター及び各センサー系統全て良し・・・・・・レーザーブレード正常作動、ライフル、ロケット、デコイ装弾数確認・・・問題無し。最終チェック完了・・・やっぱグレッグさんの整備は一流だあね〜♪」

機体が正常に稼動する事を確認し、俺はコックピットから降り軽く背伸びした。

次いで首から順に上から下へと身体の各部を軽くストレッチしていく。



「スチールハートさん、試合開始15分前です。」

身体をほぐし終わった頃サラが声をかけてきた。

「おう、あんがとね。」

再びコックピットに潜り込みシート後部に掛けておいたヘッドギアを装着しバイザーを下ろす。

次いで薄手のグローブをはめ、感触を確かめる。

最後にシートに座り直しシートベルトの締具合を調整した時通信が入った。
「スチールハートさん、そろそろリフトに移動して下さい。」
「了解、了解。」

リフトに移動しフットロックで脚部を固定する。

「固定完了、そんじゃ頼むわ。」
「了解です。」
軽い振動と共にACを乗せたリフトが上昇していく。
リフトがバトルドームに到着した瞬間ドーム内に凄まじい歓声が鳴り響いた。

鼓膜が割れんばかりの大歓声。

それはこれから始まる戦いへの観客の期待の表れでもあった。

前方に全身をダークブラウンで塗装された重量級2脚型ACが立っていた。
レイブン“ハードナックル”駆るAC“ストロングベアー”。

その左肩には機体名に相応しく、凶暴そうな熊のエンブレムが取り付けられていた。

「四ヶ月ぶりだな、スチールハート。」

ハードナックルから通信が入る。

淡々とした口調だった。

淡々としてはいたが、その声からは炭火の様な、一見静かだが心の奥底に熱い闘志を感じさせる。



奴が熱くなるのも分かる。

何故なら前回の敗北が無ければ既に上位クラスであるBランクに格上げが決定していただろうからだ。

しかしアリーナ参戦間もない俺に敗北した為、格上げの話は見送りとなってしまった。
実力と人気があっても新入りに敗れた男を昇格させるほどアリーナ運営委員会は酔狂ではない。

「この日を待っていた・・・お前に負けたあの日からずっとな。」

俺は無言で奴の言葉を聞いていた。

心なしか奴の声が震えていた。

「・・・いかんな、お喋りになっている。」

互いに無言になる。

沈黙が重く感じる。

「・・・これだけは言っておく。お前に勝つ。必ずな。」

通信が切れた。



「試合開始30秒前、戦闘モードを起動して下さい。」

「はいよ。」

コントロールパネルを操作し戦闘モードを起動する。

機体のFCSが作動し右腕のライフルが正面に向けて構えられる。

「ザンダシティアリーナCランクバトル、ハードナックルVSスチールハート・・・レディィィィィゴオオオオオ!!!」
アナウンスが試合開始を宣言した瞬間観客席から一気に歓声が鳴り響いた。

MISSIONN 1 「スチールハート」 END

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